
中村繁貴さんは東京国際大学人間社会学部福祉心理学科を1999年3月に卒業。その後1年間バックパッカーで海外旅行をされた空白の期間があったそうですが、人間社会学部で学んだ「高齢者の孤独死」という社会課題を解決したい想いからIT業界へ参入。株式会社テンダの平社員からスタートされ、29歳で取締役、COO, CTO、関連会社社長などを経られて、2018年には代表取締役社長に就任されました。そして2021年6月に株式会社テンダをジャスダックに上場されました。「これまでIT業界や経営者としての苦悩や課題など多かったが、次はプライム市場でもう一度鐘を鳴らせるようにやれることを精一杯頑張って行きます」と打鐘会の際に述べられています。
私が社長を務める株式会社テンダが、2021年6月10日に念願の上場を果たしました。
2021年11月に緊急事態宣言の影響で中止になっていた株式上場式典(セレモニー・打鐘会)が再開されたため、鐘を鳴らしに行ってきました。
今後も浮かれることなくまずやれることを精一杯行って、プライム市場でもう一度鐘を鳴らせるよう、皆様のご支援を賜りながら更なる繁栄を目指して参ります。
私はテンダの創業メンバーではなく、平社員からキャリアをスタートしました。20年以上在籍して今、社長という立場で上場を経験しました。周囲を見回してみると、「案外マイノリティなのだな」と思います。テンダは会長と私で「両代表」という経営体制をとっていますし、それも珍しいことのひとつかもしれません。知人に、「リアル島耕作」と表現されたことがあります。笑
せっかくの機会なので、ここまできた思考回路や、今まで周囲から投げられていた疑問を一つずつ詳らかにしていきたいと思います。
自己紹介は、平凡でマイペース
まずは、簡単な自己紹介から。
停学も受けるようなごく平凡の高校生が、平凡に大学受験をして、4年で卒業します。「いきなり端折りすぎだろ!」と思われるかもしれませんが、本当に平凡です。
気にしたことはないですが、母校の東京国際大学は所謂新設大学で、当時は知名度も低く、一般的には入りやすい大学という位置付けみたいでした。これも平凡。
学生時代はバックパッカーをしながら、心理学と福祉学を専攻していました。
卒業後の進路は一応考えていました。大学院へ行って将来は臨床心理士になるかなぁとか、学士受験して医学部で脳科学を学びたいなとか。専門学校に行って理学療法士になるか・・・進路はどれも就職ではなく、大学院や専門大学の進学を考えていましたね・・・要するに社会人になり働くことから逃げていたのだと思います。



結局進学もせず、すぐに就職もせず、海外に少し行ったりして、浮遊していました。1年ブランクが空いたあと、「何をしたいのか」自問自答してみると・・・
そういえば社会課題に違和感と疑問を抱いていた、と思い出すことができました。
大学時代、一人暮らし高齢者の実態調査をしている中、「高齢者の孤独死」という現実に触れました。すごく感じたのを覚えています。違和を・・・。この違和感を自分が学んだ心理学や福祉学で解決しよう!・・と、最初は考えていたはずです。
リアル島耕作? 平社員から上場会社の社長へ
当時はITバブルの波が何度か来ていて、片やワンクリックで世界80億人と繋がれると言われ、しかし目の前では高度経済成長期を支えてくださった人生とビジネスの先輩が誰とも人間関係が繋がっていなく、気づかれず孤独死を迎えることもある。そこに違和感があって、納得がいかなくて、人と人がもっと豊かに繋がり合う世界を創造したいと考えていました。
ITについても実はよく分かっていませんでした。でも、何となく、社会はITの力で精神的にも、経済的にも、もっと豊かにできると信じてIT業界に飛び込みました。
そうです。ただ「詳しいことはよくわからないけれど、ITを通じて人と人がもっと繋がり、豊かな社会造りが実現できる!」と信じていただけなのです。それは2000年のことでした。
心理学では情報処理を少しだけ学びましたが、プログラミングはド素人。
黒い画面に表示される、数字とアルファベットの羅列を見て1日で会社を辞めようと思ったほど、拒否反応が発動していました。実際、同期の中で成績も一番悪かったです。
これだけ自分の性格が向いていない世界でここまで頑張れた理由は、これだけ不向きな仕事で結果を残せたら自信に繋がるだろうという謎の負けず嫌いの逆転発想があったからです。自分の中でも「3年以内に上位10%に入るだけの付加価値を出す」などという中期計画を立てて、それに向かい努力してみることになります。長期計画も立てました。「35歳くらいまでには経営に関わろう」というものです。
結果的には2006年、想定より5年ほど早い29歳の終わりに、取締役に就任しました。その後は、いわゆるCOO(最高執行責任者)、CTO(最高技術責任者)のような立場をしつつ、M&Aを行った会社など関連会社の社長などを経て、2018年にテンダの代表取締役社長に就任しました。そして、(大分ショートカットしてしまいましたが)2021年ジャスダック株式上場という運びになります。はい。一旦、ここまで。
軽くこのような経歴だけ聞くと、「リアル島耕作」となるようです。



現実は漫画のようにカッコよくは過ぎてくれない。
私自身、優秀でもないし、ピカピカなキャリアがある訳でもないし、素敵なモテイベントもないです。軽く流してしまいましたが、経営に参画してからは、山あり谷あり、紆余曲折だらけでした。
急に経営の一角になったので、急いで経営学を独学で学びましたが、実務で精一杯でしたし、何よりも未熟な経営者だったのですから、仲間や、お客様、パートナーに大きく迷惑をかけることも多数ありました。
苦悩も課題も多い、凡人の私ですから、絶望に打ちひしがれ、多くの失敗や絶望、苦しみからメンタルとフィジカルのバランスを崩したこともあります。そんな私がここまでやって来られたのは、結局は多かれ少なかれ私に関わってくれたすべての人のお陰です。
私、中村繁貴への「よくある質問」
今は若い経営者が多いですし、大学在学中から起業をする人、就活せずに起業家を目指す人が大勢います。一部の積極的で能力に溢れた人がいる一方で、漠然とした未来に期待が持てない人も、何をしたらいいのかわからないという人もいるでしょう。「よくある質問」の答えは、そういった人たちに少しでもヒントになるかもしれないな、とちょっと思っています。
「よくある質問」の答え合わせをしたいと思います。
- IT業界なのになぜ転職しなかったのですか?
→ 今いる環境で必要としてくれている人がいて、それに報いることが先と思ったから。そもそもテンダでやりたいことがいっぱいあったから。
※あと、ただの負けず嫌いです。 - 引き抜きとかなかったの?
→ ありました。ありがたいことに、めちゃくちゃ好条件の時も。でも、①に近いというか、一緒にやってきた仲間とかこのメンバーでまず結果を出す方が先と思いました。
※あと、いくつかは好条件すぎてビビっていたのかも知れません。 - 起業しないの?
→ 考えたことはあります。しかし、「起業」自体は社会貢献するための手段の1つでしかなくて、起業が良いとか、悪いとか、勤めることが良いとか、悪いとか、それはビジョンやステージによって異なるかなと思います。フリーでも、起業しても、多くのステークホルダーとさまざま関わることには変わらないし、支えていただけることも変わらないと思っています。 - 上場した会社の社長になれば?
→ 上場に関心があるのであれば、上場企業の社長になればよかったのではないかと言われることもあります。但し、私の場合は特に上場企業の社長になりたかったわけではなくて、今いる組織やサービスをより多くの人に届けるための手段としての上場と考えていましたし、できることなら上場自体を自分が社長の立場で実現、経験したいと思っていました。
※あとは、社長として上場を経験するチャレンジの重要性も感じていたのかも知れません。上場というステージがある状態も大切ですが、そのステージまで会社やサービスを創り上げるプロセスの重要さを感じていました。 - 雇われ社長はメリットないよ?
→ そんなことはないです。オーナーCEOという大きな存在がいてもらえるから、No2としてCOOとして力を発揮できることも大いにあります。個人的に、経営はアートだと思っています。たいていの経営者はアーティストです。雇われている社長かどうかは、自己表現をするアートの手段の1つでしかありません。起業して、自由度が増すことは多くあると思いますが、結局株主がいて、ステークホルダーがいる中で、自己表現をする手段としては同じだと思っています。
※この「経営はアート」部分、少しややこしいので興味のある方がいらっしゃるようでしたら、別で気が向いたら書かせていただきます。
特に、今はテンダを卒業されたメンバーも含めた社員のみんな、お客様、家族や友人も含めたパートナー、株主の皆様のご支援があってのことと痛切に感じています。
このようなご支援の元、上場してスタートを切りました。
本当に感謝してもしきれません。

(日経CNBC「IPO社長に聞く」でのインタビュー)
社長に就任して、目標に掲げたこと
2018年9月に社長に就任してから、企業理念を変更し、「テンダの存在理由=Mission」「イメージする未来の姿=Vision」そして「組織としての行動規範=Value」を企業理念に掲げました。Missionは「人と社会を豊かにする」、Visionは「ITサービスで人と社会の価値を創出する」になります。そしてValueは、「AIとクラウドでワークスタイル変革を目指す」としました。こうした企業理念を打ち出したことで、企業として目指していく方向が明確になったと思っています。
人とITのコラボレーションで社会貢献を
株式会社テンダのホームページでは次のような企業情報や事業内容などを紹介しています。「ITサービスで人と社会の価値を創出する」というビジョン実現に向けて、企業スローガンである「SHINKA経営」の実践により、ワークスタイル変革ソリューションとデジタルトランスフォーメーション(DX)を通じて、働く時間の効率化や充実、人々の余暇の充実に貢献し、人と社会に豊かさを提供します。
株式上場という新しいステージに立ち、チャレンジさせてもらえることを心から嬉しく思っています。これからも、初心を忘れず、社会や責任と向き合って付加価値の向上による社会貢献に努めて参ります。いま私にできること。それに邁進します。
皆様のご支援のほど何卒よろしくお願いいたします。
テンダは創業以来「ホワイトカラーの業務効率化」を目指し、製品/サービスの開発やエンジニアリングの提供を行ってきました。業務内容としましては、次の3つの事業です。
≪ビジネスプロダクト事業≫
累計導入企業が2,600社を超える『Dojo』(ドージョー)をはじめとした、「ホワイトカラーの業務効率化」を目的としたサービスを提供しています。企画はもちろん、開発やマーケティング、カスタマーサポートなどすべてを自社で行うなど、お客さまの声を反映しやすい体制を構築しています。
≪ITソリューション事業≫
1,000件以上の実績のある、企画から保守・運用、技術者支援まで一貫したソリューションを提供しています。自社で開発したCMSやWebクローラーなど、お客さまの課題解決に役立つツールがあることも特長です。
≪ゲームコンテンツ事業≫
2001年よりゲーム開発に携わってきた長い経験と実績がテンダにはあります。ソーシャルゲームに係るすべてを内製できるパワーで、ゲームに関わるすべての方に持続的な幸せをお届けできるよう取り組み続けています。

仕事をするなら楽しいほうがいい
「私の専攻はもともと心理学や高齢者福祉学で、メンタルヘルスや孤独死についての研究をしていました。その経験により、鬱病の撲滅などを目指してTEんWAをつくったのが始まりです。仕事をするなら楽しいほうがいい。そんな思いで開発しました。離職率を下げたり、隠れた人財を発掘したり、人に〝気づき〟を与えるためのコミュニケーション・プラットフォームとしてTEんWAを活用してほしいと思っています」
コミュニケーションを分析すると企業の姿が見えてくる
「TEんWAを導入すれば、コミュニケーション頻度と売り上げの伸びが正比例していることがわかります。一番大きなメリットは、TEんWAが社員の個人情報データを単に管理するのではなく、集約させることで社内のコミュニケーションを活性化させ、効果的な人間関係を構築したり、気づきを与えたりすることができることです。だからこそ、最適な人事の掛け合わせや採用についても大きな効果を発揮できるのです」
AI時代に生きる人をサポートする
もう一つテンダが注力するサービスが、「Dojo(ドージョー)」です。こちらはマニュアル自動作成ツールでサービスを開始して10年目。東証上場企業の約30%が導入するなど、その実績は2400社以上と圧倒的なシェアを誇っています。09年には第21回中小企業優秀新技術・新製品賞ソフトウエア部門の優秀賞を受賞しています。
この「Dojo」の特長は、各種マニュアルや教育コンテンツの作成を飛躍的に効率化させることにあります。実際、マニュアル作成の工程数を最大98%削減し、大幅な時短とコスト削減を実現。さらに研修マニュアルなどをデジタルコンテンツ化して、各人が好きな時間にPCやスマホで学習することができる、いわばeラーニングできるようにすることで研修開催のような煩雑な調整を省くことを可能にしました。そして、コールセンターなどのオペレーター教育でも、現場実務に即したスタッフ教育の仕組みづくりに役立つということです。

(システム操作ナビゲーション「Dojoナビ」(旧名称「Dojo Sero) が「中小企業基盤整備機構理事長賞」を受賞)
同窓生へのメッセージ
現在のキャリアは、学生時代に感じた違和感と課題意識から生まれたものです。
大学生というタイミングにおいて講義だけでなく、様々なことを学び経験したことが糧となっており、母校に大変感謝しています。
ビジネスの世界に足を踏み入れたあとも、同窓生とお会いする機会が増えておりとてもうれしく思っています。採用において当社を志望いただける方や、大手外資系IT企業の幹部、最近では上場企業の社長にも同窓生がいらっしゃることも経験しました。同窓生とお会いできる際には不思議と感情移入することが多くあります。
お世話になった母校や、同じ環境で学びと経験を得た同窓生に、なにか少しでも恩返しができればと日々思っています。同窓生の皆さまもなにかのご縁かと思いますので、平凡な奴だけど同窓生にがんばっている人がいるんだな程度でも、お見知りおきいただけますと嬉しいです。今後ともよろしくお願いいたします。
(上記の文章は次の掲載記事などからも一部抜粋しております)
クラウド Watch : https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/interview/1197368.html
東洋経済 On Line : https://toyokeizai.net/articles/-/222460
(中村繫貴さんプロフィール)
東京都出身 | 駿台学園高校卒業 |
1999年3月 | 東京国際大学 人間社会学部福祉心理学科卒業 金子和夫ゼミ |
2000年11月 | 株式会社テンダ 入社 |
2006年5月 | 株式会社テンダ 取締役 |
2007年1月 | 北京天達楽恵軟件有限公司 監事 |
2008年6月 | ユニファイジャパン株式会社 取締役 |
2011年6月 | 北京天達楽恵軟件有限公司(中国) 董事 |
2011年8月 | 株式会社テンダ 常務取締役 |
2011年10月 | 株式会社テンダホールディングス 取締役 |
2013年10月 | 大連天達科技有限公司(中国) 董事(現任) |
2015年6月 | ユニファイジャパン株式会社 代表取締役 |
2016年6月 | 株式会社テンダ 専務取締役 |
2017年8月 | 株式会社テンダ 取締役副社長 |
2018年8月 | 株式会社テンダ 代表取締役社長(現任) |
2021年6月 | 株式会社テンダ ジャスダックに上場 |
大連天達科技有限公司 ホームページ : https://www.dltenda.com/profile