日本と世界。その双方の中小企業のIT化を日本の技術と力で活性化させたい!
木原一夫さん(1993年卒業 商学部経営情報学科 芝野耕司ゼミ)

(3年ぶりのシンガポール、マーライオン像の前で 2022年8月)
(3年ぶりのシンガポール、マーライオン像の前で 2022年8月)
はじめに
 

私は,商学部経営情報学科を1993年に卒業した木原一夫と申します。通常であれば,日本とシンガポールを行き来しながら生活をしているのですが,コロナによるパンデミックのおかげで日本に3年近く,縛り付けられていました。
私は,日本とシンガポールの双方で,企業内で利用するソフトウェアの受注開発や情報技術を活用した経営コンサルタント,コンピュータソフトウェアや機器の販売,および情報システムサポートを行なっている会社を経営しております。また,SAJ公認正指導員であることから,冬は,白馬八方尾根スキー場を拠点として,毎週末,スキーインストラクターとして活動しています。
こんな私が,どのように現在に至っているのかをご紹介させていただければと思い、今回、筆を執らせていただきました。
 
コンピュータの魅力に取りつかれた時代から社会人へ

私自身,小学生のころからコンピュータに対する魅力に取りつかれ,英語も分からない中でプログラミングに打ち込んでいました。当時は,パソコンと呼ばれるコンピュータが台頭し始める直前であり,電卓に毛が生えた程度の性能しかないコンピュータであっても10万円(現在の価格で20万円程度)もする時代でした。
中学に入り,お年玉貯金を全額つぎ込んでコンピュータを購入し,更にプログラミング熱は加速していきました。
そして,専門的にコンピュータについて学ぶべく,情報処理施設のある千葉県立一宮商業高校に進学しました。そして,高校卒業後は,最先端技術を取り入れるべく新設した,東京国際大学商学部経営情報学科に進学し,経営情報学科の最初の卒業生となりました。 ゼミでは,現東京外語大学教授の芝野耕司先生,また,既に退任されておりますが佐藤英人先生に師事し,多くの最新IT技術を学ばせて頂きました。しかし,この経営情報学科が現在ではなくなってしまい,個人的には,少し悲しく思っています。

私が東京国際大学を卒業した1993年といえば,日本のバブル経済が崩壊したとされる1991年から1993年の真っただ中でした。
そのため,学生にとって本来は売り手市場であったIT業界の景気は一気に冷え込み,内定を頂いた中堅企業は倒産,もしくは内定取り消しとなる事態が頻発しました。実際に,私の周りの友人の半数は就職活動に翻弄されたにも関わらず,結局,就職が出来ない事態までが発生していました。
そのような時期であったにも関わらず,幸いにして,私は,中堅のシステムインテグレータである株式会社システムコンサルタントに,入社することが出来ました.とはいえ,いきなり3ヶ月の自宅待機命令には,度肝を抜かれたものです。

日本の景気が冷え込み続ける中ではありますが,次々と新しいIT技術が台頭しては消えていく,技術革新が急速に進む時代であった当時,私が従事していた業務は,新しいIT技術を用いたソフトウェア開発手法の開発や技術研究,およびお客様と共に新たなソフトウェア開発を試みることでした。
それらの新たな技術に関する情報は,当時はインターネットも発達していない時代ですから取得するには書籍を頼るしかなく,しかも,それらの書籍は,日本国内において流通していないものでしたから,海外から書籍を購入し,それらの書籍に埋もれ悪戦苦闘する日々でした。
 
起業し独立後の苦難

その後もバブル経済崩壊の影響は続き,また,海外のIT技術に多く触れていたことから,日本の中小企業のIT化に対する環境について,様々な疑問意識を抱くようになりました。 そして,日本の中小企業のIT化を促進することを使命として,1999年に株式会社アルテックを設立しました。しかし,私は,IT技術には精通していたものの企業経営は素人でした.そのため,当時,話題となり始めていたMBAに着目し,2000年に産能大学大学院経営情報学研究科へ入学しました。
しかし,その直後,共同経営者が殺害される事件に巻き込まれて会社が倒産してしまい,借金を抱えることとなりました。このような状況で,従業員とともに2001年に新たに株式会社リアルフューチャーズを設立し,翌年である2002年に修士(経営情報学)を取得しました。 その後,事業拡大,および東南アジアのIT化の促進を命題にし,2007年にシンガポール法人であるReal Futures Pte. Ltd.を設立しました。しかし、この設立と同時に我々を襲ったリーマンショックの煽りを受け,いきなり苦境に立たされました。
ソフトウェア開発案件が激減し,更にシステム開発単価は急落したことで,会社経営が危ぶまれる中,日本よりもいち早く景気が立ち上がったシンガポールでの事業展開により,多くの企業が倒産するさなか,様々な方からの支援も頂き,今日まで事業を継続することができています。


(シンガポール
高層ビル)

 

(弊社社員と浅草にて)

シンガポールにおける事業展開
 

シンガポールにおけるビジネスモデルは,シンガポールで展開する外資系企業,ローカル企業の双方に対して日本品質の情報システムの提供を行なうことでした。 よって,シンガポール法人は,もちろん,様々なユーザサポートも行いますが,原則として純粋な営業部隊として位置づけ,全てのシステム開発を日本国内で行うこととしました。今では、1シンガポールドルが100円程度となっていますが,私がシンガポールへ進出した当時は,1シンガポールドルが68円の時代でした。 そのため,通常の日本国内におけるIT企業は,安価な人件費である東南アジアへシステム開発を委託するオフショア開発が主流でしたが,私たちは,その逆となる「逆オフショア」を実践しようとしたわけですから,私の周りの社長達からは批判の声が多く寄せられたことを覚えています。
しかし,ベンチャー企業として,不可能を可能にしてこそベンチャーであり,この不可能と思われる事業形態を可能とするためのビジネスモデルを開発し,実際に,シンガポールに乗り込んだわけです。
そもそも,中小企業のIT化を促進するために,日本におけるソフトウェア開発の標準工数の半分で,同等のソフトウェアを開発することを可能とするソリューションの開発を行なっていた訳ですから,物価水準の低い東南アジアでも勝負できた訳です。
 
研究者への転身

コロナウィルスが日本国内で猛威を振るう前の2017年に東京都立大学システムデザイン研究科において、博士の学位を取得すべく,博士課程後期に入学しました。 システムソフトウェア開発の現場では,未だにソフトウェアの品質担保に苦慮し,また,ソフトウェアを発注するユーザは,そのソフトウェアのテストに多大な労力とコストを要している現状があります。
このような現状において,今まで主流であった品質,コスト,期間であるQCDにかかわる情報からの品質予測ではなく,ソフトウェア開発にかかわる人たちの感性に関するデータからのソフトウェアの品質予測に関する研究を完成させるために,博士課程後期に入学したわけです。

そもそも、ソフトウェア開発プロジェクトに関する情報収集は,各ユーザやSIerのコンプライアンスの観点から非常に困難な状況でした.その中で,少ない情報であっても精度高くソフトウェア品質を予測するAIエンジンを開発することができ,2022年に5年の歳月をかけて無事に博士(工学)の学位を取得しました。
そして,現在は,東京都立大学学都市環境学部において非常勤講師を行ない,更には,RFsC情報科学研究所を設立し,情報システム品質予測に関する研究,および少量データによるAIエンジンの開発と研究を行なっています。


(博士後期課程の学位記授与式にて) 

 

(都市環境学部において非常勤講師)

結び
 

東京国際大学を卒業し,既に30年という月日が流れています.多くの諸先輩方が世界を舞台に活躍されている背中を追い続けてここまで来ました。 いつかは追い抜く!そんな気持ちでありますが,諸先輩方も私のような若輩者に追いつかれるどころか、更に加速して前を走り続けており,私自身も,後輩たちにそのような姿を見せられるように,日々、前に向かって走り続けております。 日本と東南アジアのIT化の促進のために、私たちが持つIT技術を駆使して,お客様が利用される企業システムの構築,サポート,コンサルテーションを尽力していきたく考えています。
 

(木原一夫さんプロフィール)
(経歴)
(1970年)千葉県茂原市出身
(1989年)千葉県立一宮商業高等学校 卒業
(1993年)東京国際大学 商学部 経営情報学科(芝野耕司ゼミ) 卒業
(1993年)株式会社システムコンサルタント 入社
(1999年)株式会社システムコンサルタント 退職
(1999年)株式会社アルテック 設立
(2001年)株式会社リアルフューチャーズ 設立
(2007年)Real Futures Pte. Ltd. 設立
(2002年)産能大学大学院 経営情報学研究科 修士(経営情報学) 修了
(2022年)東京都立大学大学院 システムデザイン研究科 博士(工学)修了
(2022年)RFsC情報科学研究所 設立
(2022年)東京都立大学都市環境学部 非常勤講師

株式会社リアルフューチャーズ/Real Futures Pte. Ltd.ホームページ
  http://www.rfsc.co.jp/
  http://www.rfsc.com.sg/
 
(著書・業績)
ソフトウェア開発プロジェクトにおけるシステムエンジニアの不安とソフトウェア品質に関する研究, 博士論文, 東京都立大学大学院, 2022
SEが持つ感覚的評価から非障害案件の程度を各ソフト設計工程で確率的に予測する試み[DOI: 10.5057/jjske.TJSKE-D-21-00001], 日本感性工学会論文誌, Vol. 20, No. 3, pp. 301-309, 2021
ラフ集合分析によるSEが持つ感覚的評価からの非障害案件予測[DOI: 10.5057/jjske.TJSKE-D-20-00043] 日本感性工学会論文誌, Vol. 19, No. 4, pp. 395-403, 2020
SEが持つソフトウェア設計書に対する不安要因と非障害案件の関係性分析, 日本設備管理学会誌, Vol. 32, No. 1, pp. 1-7, 2020
Research of computer system quality transition process based on quality sense values by system engineers, The Asia Pacific Industrial Engineering & Management Systems Conference 2018, 2018
標準化デジタルドキュメントにおける情報認識および情報活用の研究, 修士論文, 産能大学大学院, 2002
 
(学会会員)
情報処理学会正会員
日本経営工学会正会員
日本感性工学会正会員
 
(学位)
東京国際大学 学士(経営情報学)
産能大学大学院 修士(経営情報学)
東京都立大学大学院 博士(工学)
 

 

TIU 霞会シンガポール支部