香港で、香港の仲間と共に30年
西村かをりさん(1989年教養学部国際学科卒業 枇杷木賢生ゼミ)

(2024年旧正月前の香港にて)

香港在住29年の西村かをり、と申します。現在勤務している会社のシンガポールオフィスに一昨年入社した日本人営業の方が、霞会シンガポール支部の落合さんと家族ぐるみのお付き合いをされており、東京国際大学(TIU)同窓生として今回寄稿させて頂くご縁を頂きました。

香港の現状
現在日本の『宝印刷(株)』の海外関連会社である『Elite Asia (HK) Pte Ltd.』という通訳・翻訳手配会社でCEOを担当しております。ニュース等で皆さんもご存じの通り、香港はここ数年色々な状況を経験して来ました。人口自然減と流入減、そして海外への流出を差し引いた純流出は2023年2月現在で6万人となりました(『日本経済新聞』2023年2月16日記事より)。  

海外移住する人数が大幅に増加した訳では無く、元々香港は海外への移住に抵抗が少なく、且つ旧宗主国であるイギリスが香港市民14万4500人を受け入れるとし、英国海外市民(BNO)パスポートを持つ香港人に就労を認め、将来的には永住権の取得を可能にすることを発表。カナダ、オーストラリア、シンガポール等の国々がそれに続きました。しかしながら海外移住には、それなりに費用も掛かることから、香港の就業人口の内、Manager等役職者クラスの、企業にとって要となる年代が、子供の教育について懸念を覚えての移住が増えていると言われています。


<2019年民主派デモ> 


<現在の国際金融センター>

ただ私が勤務している企業でも2023年スタッフ退社による後任採用を実施致しましたが、20代の候補者はそれなりの人数が面接に参加してくれましたので、ここ香港で頑張っていこうという若い世代もしっかりと残っているとも感じています。

香港政府統計処によると「香港域外企業が香港に設置している拠点数は、2022年6月時点で合計8,978社と、前年(9,049社)比で0.8%減少したが、日本企業が香港に設置している拠点数は、1,388社と前年から変動はなかった。日系企業が香港に拠点を置く理由には、簡素な税制や低税率、フリーポートとしての位置づけ、地域統括あるいはキャッシュマネジメントの拠点としての機能が挙げられる。また、シンガポールなどの都市にはない大きな魅力として、中国本土へのアクセシビリティーが挙がる」と香港の経済的魅力を述べられています。

TIUとの繋がりと中国語
1984年教養学部国際学科に入学、1987~88年に北京へ留学、89年に1年遅れて卒業致しました。TIUと私の繋がりは中国語を抜きにしては語れません。欧米各国語の授業が200名レベルの登録人数だったのを見て、母が育った環境の影響で中国に関心を持っていた私は、35名という少人数であった中国語のクラスに履修登録し、そこで台湾からの留学生達と親しくなりました。
今から考えると台湾人の友人も多かったので、台湾への留学も検討すべきだったなとも思いますが、1980年代はまだ留学情報はあまり多く無く、TIUが山西(さんせい)省の山西大学と交換留学制度を実施していたことから、中国本土への留学を中心に検討致しました。ただ山西大学の交換留学から戻って来られた先輩が、訛りの強い中国語になっていた事にかなりショックを覚え、訛りの無い中国語を話したいと思い、自費で北京語言大学(当時は学院)に留学致しました。

中国との関りを持つ企業への就職と香港への転職
1988年に留学を終え4年生に復学、就職活動を始めました。丁度中国も開放政策を取っており、日本企業が中国へ進出も増えていった時期でもありました。
その中で『正栄食品工業(株)』に新卒として採用頂きましたが、雇用機会均等法2年目でもあり、女性を海外出張や駐在に出すことは、まだ一般的では無かった頃で、ファックスで中国とやり取りの担当や、お客様が中国、台湾から来られるとアテンドのサポートをさせて頂く業務が中心でした。
その中でもう少し中国語を使った仕事をしたいと1992年『(株)三幸』へ転職。中国食品を輸入する企業で、香港企業と提携し、しいたけやきくらげ等をグレード別に仕分け、日本で販売している企業でした。入社3年後、その提携先の香港企業の社長に「中国語を話して仕事がしたい」と相談し、香港会社へ転職させて頂き、1995年香港へ参りました。しかし程なくしてその香港会社の経営状況が思わしくなくなり、香港へ呼んだ責任上、会社からは日本へ帰って欲しいと言われましたが、この短期間で帰国するのも、と思い、1996年ジーンズ製造・販売の日系企業を経て、1998年『香港日本商工会議所』(以下、商工会議所)へ転職致しました。

香港日本商工会議所で約20年間、香港日系企業へのサポート
当初香港へ来た頃は中国大陸で話されている北京語しか話せず、社長の通訳を担当していたことから、「普通話が崩れるので、広東語(香港地場で話されている方言)は覚えるな」と言われておりました。しかしジーンズ製造・販売の日系企業では広東語での通訳が任務となり、香港人の同僚や友人と会話する中で、広東語を少しずつ話しながら習得していきました。『商工会議所』に採用された際の決め手は広東語が話せることだったと、採用後に事務局長に言われ、苦労して身に着けたことは、全て自分を助けるのだと感じました。

『商工会議所』は、戦後香港へ進出していた大企業である99社が中心となり、急激な日系企業の増加により、組織を整備し会員の要望に応える必要と、地元のビジネス団体とも組織として連携を行い、香港と日本の間で経済的な連携を促進する為に上記の目的達成の為設立された団体です。長年勤務されていた事務局長が交代され、組織変革をされる中で採用頂きました。

1998年8月から2017年3月という香港にとっても、また香港の日系企業にとっても大きな変革の時に、日系企業の変遷、香港の各組織の状況を目の当たりにし、多くの企業様を自分なりにサポートさせて頂けたことは、非常に得難い多くの経験をさせて頂きました。
それまでは香港へ進出する企業は、主に大企業が多かったようですが、私が『商工会議所』に所属していた時代は、段々と中小企業が進出していく流れとなっていました。

その流れに沿う様に「中小企業部会という業界毎の分類ではなく、業界横断型の新たな部会が作られました。『中小企業庁』による企業サイズの定義からすると、『商工会議所』の所属会員企業は大企業に属する企業が大半でしたので、目の前に居られない中小企業を、どう探して如何にサポートするか、という中々ハードルの高い活動を迫られていました。ただ毎年香港で開催される「Food Expo」というイベントに、日本から多くの中小企業が参加されていたので、その方々に最終日に商工会議所へお越し頂き、バイヤーである香港企業とのマッチングを行いました。

例に挙げますと、あるシウマイを製造販売されている企業へ、香港企業の方が「こんなにサイズが大きく無くても良い。パッケージももっとシンプルにして単価を下げられるのなら、飲茶レストランを運営する企業に紹介出来る」と言われたのを傍で伺い、日本で良いと言われるものも、別の市場へ売り込む際には、やはり現地の方のアドバイスは不可欠だなぁと実感致しました。企業の海外進出の目的に沿い、如何にサポートさせて頂くかという視点を身に着ける絶好の機会となりました。

またその後転職した現職の通訳・翻訳の会社に転職後も、多くの会員の方がお心に掛けて下さり、転職後2年で約200社の在港日系企業を訪問の機会とお仕事も頂きました。上司にもその多くの企業に同行してもらい「香港で頑張って、皆さんと繋がって来たんだね」と認識して貰うことにもつながりました。


<香港フードエキスポでの商談の様子>


<商工会議所視察による香港国際空港で、航空貨物の実機を見学>

Elite Asia(HK)で通訳・翻訳業界への新たな挑戦
2017年『商工会議所』の組織変更により、これまで担当していた会員企業へのサービス提供業務から、役員を中心としたサポート業務への担当変更が決まりました。そのまま継続して勤務するスキームの提示もありましたが、現在の勤務先の合併元である『Takara International (HK) Ltd.』(以下Takara HK)にご縁を頂き、転職を決意しました。Takara HKは 元々『宝印刷(株)』という上場企業様の和文有価証券報告書を作成する企業が、初めて香港に作った海外拠点です。 現在日本政府は、日本企業の価値を更に高めるべく、有価証券報告書を日本語のみでなく、一部英語での作成を推進し始めております。和文報告書を本社が受注し、それを弊社で翻訳まで一気通貫でサービスを提供する為、弊社も世界中に点在する優秀な翻訳者と共に、精度の高い報告書の翻訳の提供を目指し、組織構築を行っております。


<オフィスの外観>


 <翻訳に関する打合せ中>

またHolding Companyである『(株)タカラアンドカンパニー』は積極的にM&Aを行っており、通訳・翻訳業界での地位を高めるべく、2018年シンガポール・マレーシア・香港拠点企業の通訳・翻訳会社『Translasia Holdings Pte. Ltd.』、その傘下の『Elite Asia (HK) Pte Ltd.』、2019年翻訳事業会社 『(株)十印』、2020年日本最大手の通訳・翻訳事業会社『(株)サイマル・インターナショナル』を子会社化して参りました。

現在私は『Elite Asia (HK) Pte. Ltd.』のCEOとして、日本の上場企業様の有価証券報告書の英文及び中文翻訳業務を中心として、香港現地の日系・非日系企業の通訳・翻訳事業拡大に尽力しております。これまで長年香港のみに拠点を持つ非営利企業で企業様のサポートを主業務として行ってまいりましたが、現職では各国関連会社との連携、スムーズでより精度高く、業務対応量の拡大の出来る体制の構築、新規顧客の開拓・展開等、慣れないこと、学ばねばならないことの連続です。

今の目標は、香港で頑張っていこうとしている香港人の若いスタッフと共に、様々な業務の背景や目的を共有しながら、事業の発展、現地への貢献を目指しております。その思いに立てるのも、TIUで各国からの留学生との交流、ゼミナールや授業でのやり取りを通して、培わせて頂いたものと感謝の思いで一杯です。

こうして卒業後の長い時間を経て、TIUの皆様とご縁を頂き有難く存じます。会社としても、個人としても、何かお役に立てることがございましたら、遠慮なくご連絡頂ければ幸いです。
今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。

(西村かをりさんプロフィール)
東京都出身、埼玉県立志木高等学校卒業
1984年4月東京国際大学教養学部国際学科入学
下羽 友衛ゼミ(1、2年次)、枇杷木賢生ゼミ(3、4年次)
1987年~1988年北京語言大学へ留学
1989年3月東京国際大学教養学部国際学科卒業
1989年4月~ 卒業後、正栄食品工業(株)、(株)三幸などに勤務
1998年8月~2017年3月香港日本商工会議所に勤務
2017年4月~Elite Asia (HK) Pte Ltd. CEOとして現在に至る
*Elite Asiaは宝印刷(株)の海外関連会社

Elite Asia (HK) Pte Ltd.   website: https://www.takara-international.com/
(2023年4月にシンガポール傘下の香港拠点と合併した為、旧社名のサイトとなっております)
Elite Asia (SG) Pte Ltd.   website: https://www.eliteasia.co
Email address:        k_nishimura@gs.takara-print.co.jp

 

TIU 霞会シンガポール支部